マレーシアのジョホールバルで開催されたアジア太平洋気候ウィーク(APAC Climate Week)2023で、South Poleの炭素・金融政策及びカーボンクレジット市場におけるリージョナル・ディレクター、カロリーン・カーサー・ディアズに話を聞いた。
APAC地域は、様々なカーボンクレジットの市場メカニズムの導入・実施に先行的に取り組んでいます。2021年には、アジアに位置するプロジェクトからくるクレジットが、ボランタリー市場で販売された全クレジットの半分以上を占めました。 この地域はカーボンクレジット市場の原動力となっており、気候変動による緊急事態に取り組むための市場ベースのメカニズムの可能性を実証しています。
が増えています。これは気候変動問題に継続的に注目していることの証です。こういった企業は、既存の脱炭素戦略を強化するためにカーボンクレジット市場に注目しています。ジョホールで開催されたAPAC Climate Weekは、この地域が気候変動対策の実施・革新において先行していることを明らかにし、APACのプレイヤーは、特にパリ協定第6条について、将来の世界的カーボンクレジット市場を成型しています。
パリ協定第6条については、一握りの国は既にが積極的に取り組んでいます。第6条は、気候変動目標の達成、通称NDC(国が決定する貢献)、に向けた各国間の協力においてルールを規定する。
国が、ITMO(国際的に移転された緩和の成果)と呼ばれる炭素削減に紐づく金銭的価値を持つ資産を取引することで、気候変動プロジェクトのホストカントリー(実施国)は、当該プロジェクトから創出される「インパクト」を金銭的な佑助を受ける代わりに他国のNDCに移転することができます。ITMOは、官民双方によって売買され、買う側(金銭的な佑助をする側)が国の場合、ITMOを利用してNDCの達成に使えますし、一般企業の場合、気候変動目標の達成又は政府が定めた規制の遵守(コンプライアンス)に当てることができます。
APACにおける第6条下での気候変動対策の可能性は計り知れません。今年の当初に、タイとスイスはアジア初の第6条プログラムを承認することでお手本を作った。このプログラムを通して、タイに2,000台以上の電動公共バス車両を導入し、2030年までに約50万トンのCO2の発生を回避し、混雑する大都市の大気の大幅な改善に貢献します。
この仕組みを成り立たせる資金は、スイスのKliK財団の炭素削減量(ITMO)の購入によります。また、回避された排出量は二重計上が行われることはないよう、相当調整(corresponding adjustment)メカニズムを通してスイスのNDCに移転されます。 結果として、タイは輸送インフラによる排出を迅速に削減できる一方、スイスは国内の排出削減により費用対効果の高い方法で資金を使えるため、ウィンウィンな状況になります。
APAC Climate Week 2023では、バンコクのEバス・プログラムに大きな関心が寄せられました。これからももっと広い範囲で第6条に基づいた取引が行われることを期待しています。
民間企業にとって、プロジェクトの共同開発や、政府による資金調達の穴を埋めるという点では、たくさんの可能性があると思います。地球全体の排出量を削減し、自然を保護・回復し、気候変動に対して最も脆弱な人々を支援するプロジェクトに資金を提供することで、民間セクターは気候変動対策を推進することができます。メリットは明らかです:色々な研究も行われていますが、炭素市場に積極的に取り組む企業の方が、自社の脱炭素化を早く進められていることが証明されています。
炭素市場で活動することは、企業にとってより広範な利益をもたらします。知識とスキルを身につけることで、気候変動対策において先行する企業は、現在と将来の規制やコンプライアンス市場の要求に柔軟に対応できるようになります。
パリ協定の第6条が潜在な能力を発揮し、可能性を超えるためには、健全に機能しなかればなりません。現実として、世界的な気候変動対策制度や規制のツールに一つとみなされるでしょう。しかし、私が期待しているのは、6.4条と6.2条両方における進展と改善です。
第6.4条の国連クレジット制度に関する新しいルールが合意されることを期待しています。一部進展はありましたが、多くの複雑な問題はまだ未解決です。二酸化炭素除去技術を第6条にどのように盛りこまれるかは、合意を望む分野の一つです。また、議論に、方法論や基本原則、インテグリティ(十全性)への取り組み方など、技術的な側面の明確化も行われることを期待しています。
ITMOの取引を管轄する第6条2項は既に機能していますが、まだいくつかの実務的な問題が解決されていません。 ITMOの認可プロセスはどのように機能するかについてより詳細な説明を期待しています。これは管理的、または官僚的に聞こえるかもしれませんが、世界中のグリーン投資の魅力に大きな影響を与えると思います。
昨年エジプトで開催されたCOP27で合意された損失損害基金(Loss& Damage Fund)は、今年のCOPで注目されるトピックであり、特にAPAC地域に意味することは大きいと思います。この基金は、気候変動による異常気象に最も脆弱なコミュニティや国々に資金を提供する目的のものとなっています。このような国やコミュニティの多くはAPACにあり、基金の導入をめぐる議論は、アジア太平洋諸国が気候変動にいかに早く適応できるかに直接影響します。
また、世界的なエネルギー転換における大きな流れの一環として、再生可能エネルギーに関する世界目標(SDG7)が優先される議題となることが予想しています。さまざまな化石燃料の段階的廃止に向けた革新的な金融関連の仕組みへの移行が見られます。 その一例がロックフェラー財団による取り組みです。この取り組みは、新興国における石炭火力発電所を再生可能エネルギーへの公正な移行を奨励するためにカーボンファイナンスを活かすことを目指しています。
アジア太平洋における気候変動対策は、かつてないペースで進んでいます。一方で、気候変動対策を引っ張って行くこの地域の多くの国、都市、コミュニティは、民間企業による活動の面ではまだ、まだ未開拓の地域です。APAC Climate Week 2023では、アジアの勢いあるリーダーシップが際立ちました。