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11 3月 2024

TNFD:企業による生物多様性アクションを促す重要なフレームワーク

6分で読める
企業の気候変動対策
Diana Swidler
Diana Swidler Sustainability consultant
Santiago Martinez Global Business Development Lead, Biodiversity

地球が気候変動と生物多様性の損失という大きな危機に直面する中、持続可能な未来を作る上で、民間セクターの役割に注目が集まっている。

2023年のクライメート・ウィーク・ニューヨーク2023で TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が最終的な開示推奨事項と指標を発表したことは企業による生物多様性への取り組みを加速させる分岐点となった。2年間の開発の集大成ともいえるTNFDの推奨事項と基準は、最新の科学に基づいて作られたツールであり、同時に企業の責任範囲を明確にし、企業が生物多様性に対する取り組みを始めるきっかけや更なる改善を促すものとなっている。

本記事では、TNFDの概要、そのアプローチ、そしてこれらの新しい推奨事項と指標が企業のサステナビリティ戦略にとって不可欠である理由について解説していく。

TNFDとは

TNFDは自然関連リスクを軽減し、より本質的なアクションを促進する目的で設立されたTNFDは、透明性と適応性が高い強固なフレームワークである。その主な目的は、企業が自然関連リスクを報告し、それに基づいて行動を起こすための包括的なフレームワークを提供することにあるため、TNFDは単なる規定文書やベストプラクティスではなく、生物多様性に関する問題を企業の意思決定に不可欠なものとするための統合的なロードマップなのである。

TNFDの重要性

TNFDは生物多様性についての情報開示を標準化し、投資判断のための指針を示し、アカウンタビリティ(説明責任)を高める上で重要な役割を担っている。

情報開示の標準化

これまで、企業が生物多様性に与える影響を正確に評価することは投資家や企業のステークホルダーにとって困難であった。しかし、TNFDフレームワークの導入により企業の環境への影響を統一的かつ正確に測ることが可能となった。これにより、企業のステークホルダーは正確な情報に基づいた意思決定を行うことが可能となり、また企業自身にとっても同業他社とどのように比較されるかを理解しやすくなった。

投資判断のための指針

TNFDは企業が生物多様性への影響と依存を理解するためのガイドラインである。 そして、企業はこの情報を自社にとってのリスクや機会として理解することで、グローバルなサステナビリティ目標(例えば、昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組や国連の持続可能な開発目標)に沿った投資判断をすることが可能となる

アカウンタビリティの強化

企業のアカウンタビリティもまた、TNFDのフレームワークが大きな影響を与える領域である。生物多様性損失につながる活動についての説明責任を促進することで、積極的な生物多様性保護への貢献を奨励すると同時に、遅れている企業を浮き彫りにするものでもある。この説明責任は、企業に積極的な行動を促すだけでなく、投資家やステークホルダーに、自社の行動が環境に具体的な恩恵をもたらしていることを投資家やステークホルダー向けに保証するものでもある。つまり、TNFDは財務的マテリアリティと自然に対するマテリアリティを同時に考慮するため、ダブルマテリアリティを採用するものである。

また、各企業がTNFDの方法論に従って活動することで、より広範な波及効果を生み出すことが可能になる。情報開示が気づきを生み、気づきが企業による行動を促し、その行動が業界に変化をもたらしていくのである。

アプローチの理解

TNFDはその測定方法として、先行指標アプローチを提案している。このアプローチは、利用可能な最良の科学データを採用し、 サステナビリティ会計基準審議会(SASB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)、およびCDPなどの主要な開示および標準化団体が使用する指標と整合性を担保するものである

TNFDは、報告企業に対して柔軟性を与えつつ、情報利用者が企業を比較することを可能にするために、セクター横断的な指標とセクター固有の指標の両方を組み込んでいる。

自然関連リスクを企業の意思決定プロセスに組み込む際、TNFDは LEAP(Locate, Estimate, Assess, Prepare)アプローチの導入を推奨している。 LEAPアプローチは、企業が影響と依存の複雑さを理解し、自社にとってマテリアル(重要)なリスクと機会を特定し、ステークホルダーとのエンゲージメントや測定可能な目標設定を含む構造化されたアプローチである。最新のTNFD推奨事項は、先住民や地域コミュニティの役割を重視し、企業がこれらの重要なステークホルダーとどの程度関与しているかを開示することを促している。

TNFDとSBTNの関係

2023年9月に公開されたLEAPアプローチにおける目標設定の追加ガイダンスはScience Based Targets Network(SBTN)と共同開発されたものである。 両者は環境持続可能性と企業のアカウンタビリティの分野で補完的でありながら独自の役割を持つ。両者とも、より持続可能で公平なグローバル経済を目指し、自然にとってプラスとなる成果を達成することを目指している。

2023年5月、SBTiは企業がSBTs for Nature(自然に関する科学に基づく目標設定)として最初の方法論を公開した。これは、淡水と土地についての目標を企業がいかに設定すべきかについて明確に定義された方法論が含まれている。さらに、SBTNは現在の方法論のバージョン1でカバーされていない生物多様性に影響を与える可能性のあるギャップを埋めるために、海洋と生物多様性に関する追加ガイダンスを発表する予定である。

SBTiとTNFDの連携

SBTNとTNFDは異なる立場で活動しつつも、互いに連携し、相互的に支え合う関係にある。SBTNは科学的根拠を提供し、TNFDは透明性のある情報開示と説明責任のための財務的フレームワークを提供している。具体的には、SBTNとTNFDは以下のような形で連携している。

  1. 目標と財務的リスクの整合: SBTNが認定した科学的根拠に基づく目標は、TNFDのフレームワークにおいて財務的リスクと機会を評価する際のベンチマークとして使用することができる。SBTNに沿った目標を持つ企業は、TNFD開示において、自然関連のリスクが少なく、より良いパフォーマンスを示す可能性が高いことを示すことが可能だ。
  2. データと指標: 両イニシアチブは、データ、インサイト、方法論といった情報を共有し合うことで、自然関連の測定基準の精度や妥当性のレベルを向上させている。例えば、SBTNが策定した科学に基づく指標をTNFDはその開示ガイドラインにて採用することが可能である。
  3. ステークホルダー・エンゲージメントの活用: SBTNとTNFDは、企業、金融機関、政策決定者など対象者が重複していることから、ステークホルダー・エンゲージメント活動で互いに協力し合うことができる。
  4. 報告書の統合: 企業は科学的根拠に基づく目標をTNFDの開示に統合することで、より包括的かつ信頼性の高いサステナビリティ報告書を作成することが可能となる。
  5. 政策の相乗効果: どちらもマルチステークホルダーかつセクター横断的であることから、共に政策提言することができるため、政府や規制当局に対して、自然保護や持続可能な開発の確保についてフレームワークの採用を促すことが可能である。

SBTNの目標設定方法が発展し続ける中で、それによって生まれるデータは、企業がTNFDのLEAPアプローチの一部を自然関連問題の評価に適用し、TNFDの推奨事項に沿った開示を行うのに役立つだろう。

次のステップ

TNFD推奨事項の公開は大きな前進ではあるが、生物多様性保護への旅路はまだ始まったばかりである。企業はフレームワークを採用し、すべての主要部門においてトレーニングとキャパシティビルディングを行っていく必要がある。そして、TNFDの指標に基づいて自社の目標を設定し、実績をモニタリングし、必要に応じて改善を進めていくことが求められる。

TNFDは単なる推奨事項ではなく、進化し続けるフレームワークであり、企業の戦略、業務プロセス、財務計画のDNAそのものに浸透されるように設計されている。将来的には、さらに多くのコミュニティからのフィードバックや実際のケーススタディを統合し、企業の持続可能性のためにさらに効果的なツールへとフレームワークを改良していくことだろう。

とはいえ、クライメート・ウィーク・ニューヨーク2023の期間中に最初の推奨事項が発表されたことは、企業による生物多様性アクションの開始や大幅な強化のきっかけとなった点において極めて重要な出来事であることは間違いない。ツールと責任範囲が明確に示された今、企業は生物多様性保全に向けた道を歩み始めることができるのだ。

長期的なインパクトを生み出すアクションを志す企業にとって、TNFDは大きなチャンスとなるだろう。

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Santiago Martínez (サンティアゴ・マルティネス・ビベロ) - 生物多様性ソリューション事業開発マネージャー
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