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ボランタリークレジットの調達におけるベストプラクティス
2023 5月 10

ボランタリークレジットの調達におけるベストプラクティス

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企業の気候変動対策
George Favaloro
George Favaloro Head of Climate Solutions, Americas Region

ボランタリークレジット(以下、カーボンクレジット)は、2050年までに地球温暖化を1.5℃に抑えるための重要なツールである。

自然生態系の保護と回復に資金を提供するだけでなく、カーボンクレジットを生み出すプロジェクトは、気候変動の深刻な影響を受けている地域コミュニティを支援し、レジリエンスを向上させるためのインフラの構築に重要な役割を果たす。

企業は、科学的根拠に基づく1.5℃目標の設定と絶対的な排出削減を優先するべきであるが、クレジットを利用することで、企業は残存排出量について今すぐ行動を取ることができ、さらに重要なこととして、ネット・ゼロへの世界的な移行に資金を提供することができる。

信頼できるカーボンクレジットの使用に関するSouth Poleの原則に概説されているように、意義ある気候変動対策を実行するためには、企業による高品質のカーボンクレジットの購入は不可欠である。しかし、多くの企業は調達方法に未だに困っており、South Poleが実施したカーボンクレジットのRFP調査によると、調達した企業の80%以上が何らかのデューデリジェンスサポートを求めていることがわかった。

カーボンクレジットを購入する際、どのようにリスクを回避し、インパクトを最大化するかは多くの企業の課題であることは明らかである。

理想的な調達プロセスの確立

金融関連の投資と同様に、カーボンクレジットの購入には100%リスクがないわけではない。一般的なカーボンクレジットのリスクには、追加性、永続性、リーケージ*があり、これらのリスクはカーボンクレジットを創出するプロジェクトの種類、技術、場所によって異なる。

さらに、市況が急激に変化した場合、仕入れるタイミングが来ても希望するクレジットが入手できなかったり、価格の変動により、企業の戦略に沿った調達ができなくなることもある。

一方で、前述のリスクの中には、コントロール可能なものもある。例えば、広い選択肢から希望条件に沿ってクレジットが選択できると、将来的なリスクが予想でき、より適切に管理することができる。企業がコントロールできないリスクも常に存在するが(カーボンクレジットは全般的に、メディア報道による被害リスクがある)、ベストプラクティスに基づく厳格な調達プロセスがあれば、こうしたリスクを最小限に抑えることは可能である。

ソリューション

具体的なニーズは事業体により異なるが、継続的に信頼できるカーボンクレジットを調達するためには、当社は一般の企業に以下4つのステップに従うことを推奨している。

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Step 1: 目的を明確にする

クレジットの調達を成功させるには、先ず、社内関係者の知識が不可欠である。さらに、なぜ企業がクレジットを調達したいのか、そしてその取得が企業の持続可能性戦略にどう貢献するのかについて、社内で認識を共有し、整合させることが重要である。

排出量削減を進める過程で、企業がすぐに削減できない排出量を補うためにカーボンクレジット(オフセット)を使用することは可能である。また、科学的根拠に基づく目標イニシアティブ(SBTi) の推奨どおり、削減できない排出量に対処するために二酸化炭素除去技術(CDR)プロジェクトへのクレジットを通しての資金提供も可能である。 SBTiは、企業のバリューチェーンの外で行われる気候変動対策への資金提供を「バリューチェーンを超えた緩和」、又は「BVCM」と呼んでおり、この目的においてはカーボンクレジットは有効な手段であることを認めます。SBTiのネット・ゼロ・ガイダンスは、BVCMを排出削減実施後の第二段階に導入することを推奨しており、これは気候変動に対処するための社会運動において重要であることを強調する。 

企業のカーボンクレジットの調達目標をSBTiのネット・ゼロ・ガイダンスに整合させて利用する方法は、カーボンクレジットの利用方法のたった一例である。これ以外にも、特定の目的でカーボンクレジットを利用する企業や、より広範なサステナビリティ戦略に組み込む企業もおり、企業によるカーボンクレジットの有効的な使い方は複数ある。

さらに、カーボンクレジットの調達方法は、企業の動機によって異なる場合もあります。例えば、女性向けの製品を生産する企業は、5番目の持続可能な開発目標「ジェンダー平等の実現」に関わるコーベネフィットを生むプロジェクトから由来するカーボンクレジットに調達を集中する可能性があります。

社内関係者は、調達における動機を特定する以外にも、クレジットの種類(自然ベース、技術ベースなど)の違い、市場、調達事項などについて知る必要もある。またこういった知識を得ることは、意思決定と野心の実行において不可欠である。

企業がクレジット購入における動機を明確にし、社内関係者への教育を確立すれば、やっと購入目標が設定できる。強固なクレジット調達目標には、決まった予算枠、購入量、ブランディング戦略(企業が運営する事業のバリューチェーンや社会的インパクトへの関連付けなど)が含まれる。

Step 2: 基準を設定する 

カーボンクレジットを購入する際にはクレジット認証基準、コベネフィット、場所、品質など、さまざまな要素を考慮する必要がある。しかし、これらの要素の優先順位やリスク許容度は関係者や企業によって異なる。そのため、社内関係者は、企業に適した要素を慎重に検討・整理し、決着を付けるべきである。こうすることで、企業は特定のリスク許容範囲に基づいた期待値を設定することができるようになる。

それでは具体的に、クレジット購入を検討するある企業が、様々な項目の中からどのように優先順位を付けていくかを考えてみる。この企業が検討を進める中で、自然ベースのソリューション(NBS)は他のクレジットの種類よりも永続性リスクが高いこと、国や地域によってガバナンスや法的構造によるリスクがあることにも気付くかもしれない。 一方、まだ確立されていない、論争の的となっている一定の種類のクレジットが、風評被害をもたらす可能性があることにも気付く可能性もある。(追記:特定の規制や業界基準によって一旦拒否されたクレジットは、より広範なカーボンクレジット市場において、好ましくないとみなされることもある。)このような懸念にさらされる事業者は、リスクの根底にある要因を理解した上で、リスクに対する許容度を定量化しなければならない。

続けて、前述の企業は結論として、一部の地域から発生するクレジットのみ受け入れることで、ガバナンス・リスクを限定することになるかも知れない。また、自然ベースのプロジェクトについては、気候関連の災害(山火事など)が発生しやすい地域だけは許容しない、という選択肢をすることで、永続的なリスクも限定することを選ぶかも知れない。また、特定の基準やプロジェクト・パートナーを選択することで、クレジットを選別し、望ましいリスクの許容度に合わせることも可能である。洗練された調達担当者は、リスク内容をさらに分析して選定基準を交差する可能性もある。この例では、企業は、永続性に懸念のある地域(高い山火事リスクなど)に対して、優れた行政制度を持つ地域に位置し、高評価のプロジェクト・パートナーと優先度の高い認証基準の元で開発されたNBSクレジットのみを受け入れることにするかも知れない。理論的には、高リスクな調達において特定の低リスク要因(あるいは事業体にとってより優先度の高い要因)を組み込むことで、全体のリスクプロファイルをバランスさせる効果があるとも考えられる。

このアプローチには多くの利点がある。まず第一に、企業が何を優先すべきかを整理でき、その正当性も明確にできる。さらに、急速に変化する複雑な市場環境において、事業体がより機敏に行動できるようになる。長期間のRFPプロセスの間に、クレジットを確保できないリスクが高い中、事業体は調達基準を明確にすることで、効率的に市場を選別することができます。

Step 3: 小売業者に対する要求を整理する

前ステップで確立した選定基準に基づき、事業体は今度クレジットの小売業者に対する明確な要求をまとめなければいけない。

企業はカーボンクレジットの選定基準を整理するためには何か月も掛かる可能性はあるが、実際にはカーボンクレジットを提供する小売業者は何か月も同じオファーを維持できない。 このため、調達する側は、小売業者がファームオファーの有効期間は10~20営業日であるという事実を社内選定プロセスに組み込む必要がある。また、小売業者が提案するカーボンクレジットの種類について、調達する側はより詳しい説明を求めることは予想できる。しかし、ファームオファーの期間中に、小売業者がすべての質問に対し答えが返せるとは限らない。このため重要となるのは、ファームオファーの有効期間中に小売業者に問いかける質問と、市場から調達しようとする前に入手するべき情報を区別することである。このアプローチは調達プロセスを合理化し、社内のカーボンクレジットの知識強化にも役立つ。

市場から調達する前に入手するべき情報

  • 調達したいクレジットの認証基準の種類には何があるか。〇〇基準で認証されたクレジットはどんな手順を経て認証されるか。
  • 除去、回避、削減の違いとは?どれを〇〇の目標に使用できるか。
  • 〇〇のコベネフィットに合致するプロジェクトタイプにはどのようなものがあるか。(注:小売業者によって、アクセスできるプロジェクトの種類や数は当然異なる。つまり、市場で広くアクセス可能なプロジェクトの種類とコベネフィットについて事前に知っておくことは、調達時の合理化につながる)。
  • 希望するプロジェクト地域について、どの面を評価するべきか。

ファームオファーの期間中に小売業者に問うべき質問

事業体は、カーボンクレジットの小売業者に対する質問を、次のようなプロジェクト特有事項に絞るべきである。 

  • プロジェクト・パートナー/土地所有者の詳細 
  • プロジェクト経歴(ベースラインの再評価、検証プロセスを含む)および継続的なモニタリングの有無
  • コベネフィットの適格性 
  • 複数年契約を検討している場合は、将来のクレジット発行スケジュール

South Poleは、買占めによりクレジット在庫が迅速に枯渇する市場に対応するため、RFPプロセスの簡素化と事前の契約条件(T&C)の確立と、競争的市場でも確実にクレジットを獲得できるために、Yes/No決定を容易にする要請の組み立てを推奨する。企業がどのようにカーボンクレジットの調達に取り組むかにもよるが、小売業者に対して直接、現在の市況における推奨を尋ねることも適切の場合もある。最終的には、小売業者と調達側の双方にとって、早い段階で軌道修正し、購入者が市場をさらに理解する手助けをする方が効率的である。

Step 4: 継続できる調達プロセスを確立する 

調達目標を継続的に達成できるように、 企業は情報に基づいた意思決定を促す継続性のある社内プロセスを確立すると良いでしょう。社内の関係者にこういったプロセスを与えれば、事業体は毎年のクレジットの調達に好ましい結果を期待できる。

プロセスの導入において、事業体は、継続的な見直し、更新、選定基準の確立、市場に多く関わる人物に正式な調達責任の割り当て、また、調達担当者や社内関係者全員に対する継続的な教育を考慮するべきである。最も重要となるのは、自由なフィードバックの授受である。クレジットの小売業者は、フィードバックがなければ何を改善すれば良いのかが分からない。同様に、調達側も何が的外れなのかを知らなければ、調達プロセスの改善はできない。

まとめ

上記プロセスは、クレジットの審査と購入を成功させるために必要な包括的なステップであるが、実際の実行は複雑である。South Poleは、企業のためにクレジット調達と気候変動目標を整合させた調達戦略を構築し、実行するためのアドバイザリーサービス**を提供している。十分な情報と明確なクレジット調達プロセスは、効率的かつ効果的な調達の実行を推進し、さらに、適切な価格でのクレジット確保、リスクの軽減も可能にする。

*追加性(Additionality)とは、カーボンクレジットからの収入がなければ生じなかったであろう排出削減量のことを指し、永続性は、カーボンクレジットの耐久性のことであり、リーケージは、カーボンクレジットプロジェクトの場所から保護されていない場所への排出の移動のことを意味する。

**South Poleのクレジット・アドバイザリー・サービスには、エンドバイヤーのためにRFPを募集することは含まれていない。

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